2025.12.13

空き家から考える地域とのつながり

空き家から考える地域とのつながり

こ家プロジェクトから考える酒田の未来

港町として栄えた歴史の面影が色濃く残る山形県酒田市。江戸時代に整備された碁盤の目のような美しい街並みの一方で、時代の変化とともに深刻化するのが「空き家問題」です。酒田市が公式に把握している空き家の件数は約2,700戸。しかし、ある民間事業者が2年がかりの現地調査で導き出した実態の推定件数は、なんと4,000戸以上。行政の数字と民間の調査結果に大きな隔たりがあることは、この問題の複雑さを物語っています。

行政の調査によれば空き家のうち、なんと約8割が「良好な状態」と評価されています。これは空き家が単なる負債ではなく、「潜在的な資産」であることを示唆しています。
これを活かそうと、行政と関連団体で構成される「空き家等ネットワーク協議会」により対策が講じられてきましたが、実際の利活用には一筋縄では行かない問題が潜んでいました。例えば、隣地との境界が曖昧であるといった課題です。この問題を解決しなければ後にトラブルに発展する可能性を秘めていますが、調査には多大な時間と労力、費用が発生します。そのため、収益性の低いビジネスとして捉えられてしまうのです。

このように、手を加えるのが難しい空き家問題ですが、放置すれば「潜在的な資産」は眠ったままになります。そこで手を挙げたのが、地元工務店の代表を務める菅原氏です。「こ家プロジェクト(空き家利活用促進事業)」として、行政や空き家等ネットワーク協議会の手が届きにくい領域に入り込み、利活用の推進役を担っています。

グループワーク

酒田市には前日の雪が残り、参加者は雪道の中フィールドリサーチを行いました。寒さも厳しいためか、街にはほとんど人が歩いていません。近くには大学があり学生が出歩いていてもおかしくない環境ですが、その姿を見つけることができませんでした。そんな中、偶然出会った和菓子屋「小松屋又三郎」の店主に酒田市の歴史について貴重なお話を伺うことができました。

例えば、江戸時代、独自の行政機能や軍事訓練(集団防衛)を備えた「自由都市」としての性格を持っていたこと。北前船を通じ、大阪や北海道を結ぶ物流と情報の集積拠点として繁栄していたこと。物流だけでなく、京都などから高度な技術を持つ職人が呼び寄せられ、酒田の街並みや文化を形作ったこと——酒田という土地ならではの背景を知ることができ、参加者はワークでこのスピリットを構想に活かせないか、考えを巡らせました。

今回構想するのは、「こ家プロジェクト」の拠点の道路向かいに建つ空き家です。参加者は建物内を見学し、その特徴や可能性を探りました。

そうして、空き家を取り巻く酒田市の環境・状況・そして各グループ独自の視点などを相互に織り交ぜ、提案内容を整理していきました。
あるグループでは、「学生寮から出てこない学生に経営を任せるのはどう?」
「学生はおにぎりを握るんじゃなくて、経営を学ぶためにお店を回してもらうとか…!」など、街歩きから得たものを種に活発に意見交換がなされました。

課題に対する提案のまとめ

1.学生とシニアが結ぶ「日和山むすびや」

「学生の挑戦」と「地域の経験」が結びつく場所。これまで大学の寮からあまり出てこなかった学生たちを街に引き出し、地域のシニア世代が持つ知恵と技術を掛け合わせることで、山形が誇るお米のブランドを強みに、観光客や地域住民が集う「憩いの場」「交流の場」を創出します。

  • 学生による経営実践:経営などを学ぶ東北公益文科大学の学生に、経営の実践の場として提供。同時に関係人口の創出につなげる。
  • シルバー人材による技術伝承と雇用創出:高齢者にとって無理のない範囲での安定した雇用を生み出しながら、技術の伝承を行う。
  • 地域食材の魅力発信:酒田ならではの食材を使った「オリジナルおにぎり」を開発・販売。お米という地域の根幹にある食文化を通じて酒田の魅力を発信する。
2.観光客が主役になる「酒田美食回遊プロジェクト」

食と体験、そして人々の声をつなぐ「ラボ(研究所)」と再定義。ここを発着点として、観光客に街全体を回遊してもらい、その体験をフィードバックしてもらうことで、街と共に進化し続ける仕組みを構築します。

  • 情報発信拠点: ラーメン、フレンチ、寿司など、テーマ別に編集されたオリジナルの飲食店マップを提供。観光客が自分の興味に合わせて街を巡るためのハブとする。
  • 体験と交流の場: 地元の名店フレンチをフルコースではなく一皿から味わえる「ちょい食べ」の機会を提供したり、名物の「オランダせんべい」を自分で焼いて食べる体験を設けたりすることで、酒田の豊かな食文化への入り口を創出する。
  • フィードバックと共創の仕組み: 街を巡った観光客が、ラボに戻ってきて感想や意見を書き残す。その「声」が次のマップ更新や新たな商品開発に活かされる「観光客が編集者になる」サイクルを構築。自分の声が街を育てるという体験は、再訪を促し、強力なリピーターを生み出す。
3.「こサウナ結びの場」 ー交流で空き家を活かす 酒田の新しい地域共創ー

酒田市内には本格的なサウナ施設がないという点に着目。対象物件の「暗い・細長い」という一見ネガティブな特性を、プライベート感のあるサウナ空間としてポジティブに活かし、地域初となるサウナ施設を創設します。

  • 新たな目的地の創出: サウナそのものを目的地として、地域住民と観光客の両方を集客する。サウナ後の食事、通称「サ飯(サウナめし)」の推奨店マップを用意し、地域の飲食店や商店街への回遊を促進する。
  • 教育機関との連携: 建物の改修やDIYのプロセスを山形大学建築学科の学生と、施設の運営や広報を東北公益文科大学の街づくりコースの学生と連携。学生たちに、実践的なアウトプットの場を提供する。
  • 地域コミュニティの結び目: 2階のスペースを、サウナ利用者が交流できる畳敷きの休憩所として活用。地域住民、観光客、そして学生が自然に交わる「結びの場」を創出し、新たなコミュニティを育む。
    各グループから出た提案で共通していたのは、「共創の仕掛け」です。3つの提案は単なる空き家活用の枠を超え、酒田のスピリットを現代に蘇らせようとする試みのようです。

グループ発表後、菅原氏と教授陣よりコメントをいただきました。

菅原氏は各提案に触れ、「特に『ラボ』や『サウナ』といった発想は自分の中には全くなかった。掛け合わせれば実現可能性のある素晴らしい提案だ」と驚きと感銘を語りました。
また、酒田市役所の杉山氏からは、サウナ案について、「地域に間違いなく需要がある」とし、「サウナを起点に街を回遊する人の流れが生まれれば、これまで人が歩いていなかったエリアに賑わいが生まれる」と、新たな人の動きが生まれることへの期待感を述べました。

教授陣からは「美食回遊プロジェクト」について、美食の街として有名なサン・セバスチャンの事例を引き合いに出し、「食をテーマにしたラボ機能は、大学と連携することでさらに面白くなる」とその可能性を示唆しました。
「日和山むすびや」については「北前船で米を運んだ歴史や地域の米文化を背景にした物語性が素晴らしい」と評価しました。

各グループから出た提案で共通していたのは、「共創の仕掛け」です。3つの提案は単なる空き家活用の枠を超え、かつての酒田が持っていた、外の知見を自分たちの力で編集し、新たな富(価値)を生み出す力——酒田のスピリットを現代に蘇らせようとする実験場としての可能性が見えてきました。
「若者の感性」や「体験」を空き家に詰め込み、再び街を一つの大きな「交流の港」にしようとする、そんな未来の姿が垣間見えた一日となりました。

修士課程
入学案内

地域の課題をつかみ
事業構想力で地域を活性化させる
実践的な学び、取り組みが
地域にイノベーションを起こしています

事業構想大学院大学 仙台入学案内はこちら