観光客177万人の街・角館
「みちのくの小京都」の抱える課題を、
未来の可能性に変えるには
角館が直面する課題
秋田県仙北市は、2005年に角館町、田沢湖町、西木村の三町村が合併し誕生しました。田沢湖、乳頭温泉郷、角館の武家屋敷といった観光資源や、稲庭うどん、いぶりがっこなどの県産食品といった豊富な地域資源を持っています。しかし、人口減少が深刻化する中で、それらの資源を十分に活かしきれていない状況に直面しています。
今回フィールドリサーチを行った角館は、年間約177万人の観光客が訪れる仙北市随一の観光地です。私たちが訪れた紅葉シーズンには、武家屋敷周辺の店舗に行列ができるほど賑わっていました。しかし、観光客の多くは日帰りで滞在時間が短いため、豊富な観光資源に見合った収益を得られていないという課題を抱えています。
一方、武家屋敷のある内町エリアに隣接した外町エリアは、ユニークな店舗が点在するものの、街の建物は老朽化が進み、空き店舗や空き蔵が軒を連ねています。観光客の多くは素通りし、武家屋敷通りへの「通過点」となっているのが実情です。
これらの現状を踏まえ、私たちは「稼げるビジネスモデルの欠如」「若い人の雇用創出」「遊休資産の活用不全」という3つの課題に焦点を当て、解決の糸口を探ります。
グループワーク
会場は、元ナイトバーの空き店舗。ユニークなインテリアが残る空間で、参加者は街歩きでの発見を語り合いました。「もっと見て回りたかった」という声も上がるなど、短い滞在時間を惜しむ様子が印象的でした。
ワークショップは、株式会社角館アライアンス代表取締役社長の仲田大樹氏による現状説明から始まりました。観光客数と収益のギャップ、空き店舗の未活用の背景—地域の実情を鋭く分析する仲田氏の話に、参加者は真剣に耳を傾けました。
その後各グループに分かれ、座学で学んだ「地域構想力」の考え方を実践に移します。参加者は、「空き蔵を活用できないか」「冬の閑散期に何かできないか」—この地の資源と課題を結びつけた、具体的なアイディアを次々と生み出していきました。
課題に対する提案のまとめ
1.「春夏秋冬 角館魅力発見プログラム」構想角館が持つ四季折々の魅力を再発掘し、観光の閑散期対策と高付加価値な体験を提供することで、一度きりの観光客をリピーターへと転換させることに焦点を当てました。
- 冬:「かまくらホテル」構想 武家屋敷地区の駐車場などのオープンスペースを活用し、宿泊可能な「かまくら」を設営します。かまくらに使用する雪は、除雪に困難を抱える高齢者世帯などから調達することで、除雪支援と雪国ならではのユニークな宿泊体験の提供を両立させます。
閑散期の冬に新たな集客コンテンツを生み出し、地域の課題解決にも貢献する一石二鳥の取り組みです。 - 春:「桜の木のオーナー権販売」 日本さくら名所100選にも選ばれる角館のブランド力を活かし、桜の木の植樹権を販売します。購入者の名前を記した記念プレートを設置することで、家族の成長と共に木が育つという特別な物語性を生み出します。
購入者は桜の成長を楽しみに何度も角館を訪れることになり、継続的な関係人口の創出につながります。 - 夏:「武家屋敷の黒壁の柿渋塗り」 武家屋敷の象徴である黒壁のメンテナンス(柿渋塗り)を、観光客が参加できる有料体験プログラムとして提供します。重要文化財の保全に貢献できるという特別な体験は、SNSでの発信力も期待できます。
「文化財保全に参加してみたい」という新たな観光動機を生み出し、体験型観光の充実につながります。 - 通年:空き蔵を活用した「発酵の場」事業 100軒以上ある空き蔵を、味噌などを熟成させるための「シェアリング蔵」として再利用します。地元の老舗「安藤醸造」と連携し、観光客が自ら仕込んだ味噌を「マイ味噌」として蔵で熟成・貯蔵できるサービスを提供。
蔵自体が新たな観光スポットになると同時に、味噌の熟成具合を確認するため定期的に訪問したくなる仕組みです。遊休資産の活用と関係人口の創出を同時に実現できる提案です。
角館エリア全体を、若者や起業家が新しいビジネスを試すための「実験場(チャレンジフィールド)」として戦略的に位置づける構想です。
角館が起業の実験場として適している3つの理由
1.集客の初期ハードルの低さ:既に年間177万人の観光客が訪れており、事業開始直後から一定の市場が見込めます。
2.優れたアクセス:秋田新幹線の停車駅であることに加え、秋田空港から車で45分という立地は、国内外からのアクセスが容易です。
3.コンパクトシティの強み:回遊性がよく、潜在顧客である観光客が事業拠点のすぐそばを歩いている。これにより大都市に比べ顧客獲得の障壁が低いのが特徴です。
- 「チャレンジショップ」起業支援 空き店舗や蔵を安価で貸し出し、期間限定の「チャレンジショップ」として提供します。事業者は本格的な起業前に、自身のアイデアを試すことができます。
「週末起業」や「夜間限定営業」など多様な営業形態を可能にすることで、リスクを最小限に抑えながら事業を開始できる環境を整えます。 - 「クリエイティブ・サマースクール」 都市部のIT系ワーカーとその家族をターゲットにしたワーケーションプログラムの提案。親がシェアオフィスで仕事をしている間に、子供たちはプログラミング教室や伝統工芸「樺細工」体験、さらには田沢湖でのカヌーといった自然体験に参加します。
新たなビジネス需要を創出し、家族単位での長期滞在を促進します。IT人材との接点が生まれることで、地域のデジタル化推進にもつながる可能性があります。
2つのグループから生まれたのは、「ワクワクする体験」を求めて訪れたくなるような、この地ならではのアイディアの数々でした。
これらのアイデアに共通するのは、「能動的な共創者を生み出す」という視点です。桜の木のオーナーになる、文化財保全に参加する、自分の味噌を熟成させる、新しいビジネスを試す—いずれも、訪れる人々を単なる「観光客」ではなく、角館の未来を共に創る「パートナー」へと変えていく提案でした。
グループ発表後、仲田氏と教授陣から、提案をさらに深化させるためのフィードバックが寄せられました。
特に桜のオーナー制度には「めちゃくちゃいいですね」と仲田氏から高評価。また、創業チャレンジフィールド構想についても「まさに本当に大事なことだと思ってます」と同意をいただきました。教授陣からは、2つのグループ提案が相互補完的な関係にあるという視点と、提案内容の具体的なビジネスへの落とし込み方が示されました。
そして最後に浮かび上がったのが、観光客の「動線」という重要課題。外町エリアに明確な「目的」となるコンテンツを配置し、町全体に人の流れを作る必要性が共有されました。
グループワークの会場自体、角館アライアンスの仲田氏が再活用に踏み切った元空き店舗です。まさにその場所で、角館の未来を描くアイディアを生み出した—。この象徴的な光景に、参加者は角館の未来の可能性を感じ取っていたのではないでしょうか。